こんな本読みました! 2021年2月
2021年 02月 07日
リレー形式で、最近読んだオススメ本を 紹介して頂きます!
読んだ人:別司芳子
読んだ本:『お蚕さんから糸と綿と』大西 暢夫・作 アリス館
この本は、お蚕さんを育てている西村さん一家を取材した写真絵本だ。たった一㎝にも満たないお蚕さんを育て、糸をとるまでの過程が洗練された文章と写真で描かれている。お蚕さんは虫だが一匹、二匹ではなく、馬や牛のように一頭、二頭と数える。それだけ昔から人間にとって大切な存在だった。
糸をとるために改良されたお蚕さんは、羽根はあるが飛べない。『ぼくたちは、たくさんの小さな命を身にまとっている』という一文にハッとする。
私は小学生の頃、夏休みの自由研究で近所の農家からお蚕さんの卵をもらって育てようとしたことがあった。直径一ミリほどの小さな卵がざっと50個はあっただろう。黄色い粒が並んできれいだった。結局、どんなに待っても卵は孵らなかった。数十年経った今でも、あの鮮やかな黄色い卵の小さな命のことを思い出す。
絵本を読んで、私はどうしても作者の大西さんに会いたくなった。舞台となった滋賀県の市立図書館で、写真展が開催されると知り足を運んだ。
どの写真もお蚕さんを愛しむ西村さんご夫婦の自然な姿が捉えられ、温かさがにじみ出ている。
一体、どれだけの取材を重ねたのだろうか……。思わず尋ねた。
「この本は、わずか4年で出版できました。『ここで土になる』は10年ですから……」
笑顔で話してくれた大西さん。コロナ禍でも全国の職人さんの取材に飛び回っているという。
「自然相手の職人たちは止めることはできません。だからこそ生き抜く力があるのだと思います」
大西さんのその誠実で真摯なお人柄に、私は書き手として学ぶものは大きかった。